ここでは,図形の面積や体積を求める積分方法と,関数の面積分・体積分について解説する。
任意の曲線の長さ$l$は,$N$個の微小な線分$\Delta l_i, \ (i=1,2,...,N)$に分割して
と,和を取り,分割数を無限にする極限$N\to \infty$を取ることで
と求められるのであった(『線積分』参照)。 同様の考え方により,平面上の任意の面積$S$が,微小な面積$\Delta S_i$を用いて
とし,分割数を無限にする極限により
と求められる。 この$dS$を面積要素(surface element)という。
容易な例として,直線直交座標系を取り,原点から$x$軸方向に長さ$a$,$y$軸方向に長さ$b$を持つ長方形の面積の計算を考えてみる。 このとき,面積要素は$dx dy$と表せるから総面積は
と計算できる。
今度は円の面積を考えてみよう。 この例では,直線直交座標系を取るのではなく,極座標(polar coordinates)と呼ばれる別の座標を選択したほうが計算が楽になる。 位置$(x,y)$は,原点からの距離$r$と偏角$\theta$を用いて
で表せるから,$(r,\theta)$によって位置を指定することもできる(三角関数の復習はコチラから)。 この変数の組を平面極座標という。 直線直交座標系とは異なり,この座標系での面積要素は,単に独立変数の微小量の積$drd\theta$とはならない(そもそも$\theta$は無次元なので$drd\theta$は面積の次元になっていない)。
正しい面積要素は以下のように求められる。 半径$r$の円は,$r$方向,$\theta$方向に分割すると,図1の点$A$,$B$,$C$,$D$で囲まれたような図形の集まりに分けられる。 孤$CD$の長さは$(r+\Delta r)\Delta \theta$であり,これに$\Delta r$をかけたものは$\Delta r (r+\Delta r)\Delta \theta$となる。 そのため,$\Delta r$,$\Delta \theta$を微小に取った場合,孤$AB$の長さ$r\Delta \theta$に幅$\Delta r$をかけたものとの差は$\Delta $の3次の量となり,無視できる。 すなわち,面$ABCD$の面積は底辺$\Delta r$,高さ$r\Delta \theta$の長方形の面積で近似できる。 この面積は,図中に青色で示した長方形の面積に対応する。
図1:平面極座標における面積要素のイメージ
よって,$\Delta r$,$\Delta \theta$をそれぞれ無限小にとってやれば,平面極座標系での面積要素が
と得られる。 一般的な説明は別でするが,ここで(\ref{dS_polar})に$drd\theta$との差異として含まれる$r$は,座標変換一般の文脈でJacobianと呼ばれる量に対応する。 (\ref{dS_polar})を用いると,円の面積が直ちに
と得られる。
この手法は平面だけでなく,3次元中の曲面の計算にも用いることができる。 例として,球の表面積を求めてみよう。 この場合も,座標は極座標を用いるのが都合がいい。 3次元では,位置$(x,y,z)$はもう1つ角度変数$\phi$を追加して
で指定できる(図2左)。 このとき,球の面積要素は
で与えられる(図2右)。
図2:直線直交座標$(x,y,z)$と3次元極座標との対応(左)および3次元極座標における面積要素のイメージ
これを,$\theta$方向に$0$から$\pi$,$\phi$方向に$0$から$2\pi$まで積分する。
$\phi$についての積分からはそのまま$2\pi$が得られ,$\theta$についての積分は
となるから,半径$r$の球の表面積が
と得られる。
前節の議論は,3次元空間中の体積計算にも拡張できる。 (\ref{eq:S})に対応するのは,求める体積を$V$とすると
となる。面積分における面積要素に対応する微小体積$dV$は体積要素(volume element)と呼ばれる。
例として今度は球の体積を求めてみる。 体積要素は球の面積要素(\ref{eq:3dS})に厚み$dr$を持たせて
とできる。 これを積分したものは,(\ref{eq:sphere_area})を$r$方向に積分したものに等しく,半径$r$の球の体積が
と求まる。
ここまでの考えを利用すると,ある関数$f$の面$S$および積分$V$に渡る積分をそれぞれ
および
で計算することができる。 これらをそれぞれ,関数$f$の面積分(surface integral)および体積分(volume integral)という。
また,面から流出(または流入)するエネルギーや物質の量を計算したい時など,方向を含めた積分値が知りたい時もある。 その場合,計算したいベクトル量を$\bm{A}$,面と垂直で外向きの単位ベクトルを$\bm{n}$とすると,求める量は
で計算できる。 あるいはこの方向の情報を面積要素に含めて$d\bm{S}=\bm{n}dS$とし
と表すこともできる。
面積分の例として,次のような問題を考えてみる。
A. 円盤中心からの径座標を$\rho$とすると,(\ref{dS_polar})より,微小面積$ds$上の電荷は$\sigma \rho d\rho d\theta$であるため,その微小面から受けるポテンシャルは
とおける。 これを$\rho$と$\theta$について積分したものが求める答えだ。
まずこの中に$\theta$それ自体以外に$\theta$に依存する量はないため,$\theta$積分は容易に実行できて
となる。 残るのは$\rho$についての積分だが,三平方の定理より$r=\sqrt{z^2+\rho^2}$であるから積分は
と変形できる。 ここで
を用いると$\rho$積分はスムーズに実行でき
と答えが得られる。