p> ここでは,特定の軌道に沿った積分である線積分について説明する。はじめに基本概念の説明をしたのち,具体例を通して計算法を解説する。
平面上の曲線$C$の長さを求める一般的な式を考える。 曲線を$N$個の分割し,各区間の長さを$\Delta l_i=\sqrt {(\Delta x_1)^2+(\Delta x_2)^2}, \ (i=1,2,...,N)$で近似すれば,曲線の全長は
で近似できる(図1)。 これは,$\Delta l_i=\sqrt {(\Delta x_1)^2+(\Delta x_2)^2+(\Delta x_3)^2}$とすれば,そのまま3次元空間中の曲線にも適用できることは明らかだろう。 そして,分割数を無限大に持っていけば,(\ref{ssum})の和は積分に置き換えられ,実際の全長が
と求められる。 積分記号の添え字$C$は,特定の曲線$C$に沿った積分であることを明示している。
図1:曲線を微小な直線の集まりで近似する。
同様に,あるスカラー関数$f(x_1,x_2,x_3)$の,経路$C$に沿った積分は
と表せる。 このような曲線に沿った積分を線積分という。
物理においては,特定の経路に沿ったベクトル場の値を足し合わせる線積分を考えることが多い。 ベクトル場$\bm{A}$の経路に沿った成分$A_l$は,経路に沿った接ベクトル$d\bm{x}$との内積を取れば
と抜き出せる。 経路全体の値を足し合わせるには,これを始点から終点まで積分すればよいから
となる。
ところで,物理的な軌道の無限小接ベクトルは速度$\bm{v}$を用いて
で与えられるから,(\ref{vect_int})は
と表すこともできる。
改めて,線積分は特定の経路に沿って定義されるものであり,始点と終点を固定しても,どの経路を辿るかによって得られる値は異なるということに注意しないといけない。 例として,$x_1x_2$平面上のベクトル場$\bm{A}=(x_1,x_1)$を考え,始点$(0,0)$から,終点$(1,1)$までを結ぶ3つの異なる経路に沿って線積分してみる(図2)。
図2:ベクトル場$\bm{A}=(x_1,x_1)$のイメージ
経路は以下のように決める。 1つ目の経路$C_1$は,$(0,0)$から1軸に沿って$(1,0)$まで行き,その後2軸に沿って$(1,1)$まで行く経路。 2つ目の$C_2$は,$(0,0)$から傾き1の直線に沿って$(1,1)$に至る経路。 3つ目の$C_3$は,$(0,0)$から2軸に沿って$(0,1)$まで行き,その後1軸に沿って$(1,1)$まで行く経路とする(図3)。
図3:積分の経路$C_1$から$C_3$
であるから,まず$C_1$に沿った積分の前半は
であるが,2項目は$x_2=0$に固定されているためゼロとなる。 よって1項目だけを考えればよく
と求まる。 後半は
であるが,今度は$x_1=1$で固定であることから1項目が落ちる。 また,このとき$A_2=x_1=1$であるから2項目の計算は
となる。 前半と後半の結果を合わせることで,経路全体の積分結果が
と得られる。
次に,直線$x_1=x_2$に沿った経路$C_2$を辿る場合を計算する。 このときの積分は,$dx_1=dx_2$より
と計算できる。
最後に,$C_3$の経路を考える。 まず2軸に沿って$(0,0)$から$(0,1)$に向かう積分は,$x_1=0$であるため
より,ゼロになる。 $(0,1)$から$(1,1)$への積分は,$x_2=1$で固定されるため
と計算される。 よって$C_3$に沿った積分結果は$1/2$となる。 このように,$C_1$から$C_3$,どの経路を取るかによって計算結果は異なる。
続いて,定数$g$を用いて$\bm{A}=(0,-g)$と表されるベクトル場の例を考える。 この場合,$\bm{A}$は$x_1$成分を持たず
となるため,$x_1$方向にどれだけ寄り道しても,積分
には寄与しない。 また,$x_2$方向を正に進んだ分,負の方向に同じだけ戻れば,積分の値は相殺する。 よって,積分の結果は始点と終点の$x_2$座標の差を$h$とすれば
と計算される。 このように,このベクトル場の例では,始点と終点を固定してしまえば,積分の結果は経路によらないことがわかる。
また,閉曲線(始点と終点が同じ曲線)を一周する積分を周回積分といって$\oint$という記号で表すが,今考えている例では始点と終点が一致すると$h=0$であるため
となる。 この例は,地表近くの重力$\bm{F}=-m\bm{g}$が,質量$m=1$の物体になす仕事$W=\int \bm{F}\cdot d\bm{x}$に対応している。