はじめに
完全流体が,いくつかの条件の下に満たす保存則に対応するBernoulliの定理について解説する。
運動方程式
完全流体(粘性のない流体)の運動は,Eulerの運動方程式
\begin{align}
\label{eq:Euler}
\rho \frac{\pd}{\pd t}\bm{v}
+
\rho (\bm{v}\cdot \nabla) \bm{v}
=
-\nabla p + \rho \bm{f}
\end{align}
で記述される。
ここで$\rho$は質量密度,$\bm{v}$は流体速度,$p$は圧力,$\bm{f}$は単位質量当たりの外力である。
二項目の対流項に,ベクトル関係式
\begin{align}
(\bm{v}\cdot \nabla)\bm{v}
=
\frac{1}{2}\nabla v^2
-\bm{v}\times(\nabla \times \bm{v})
\end{align}
を用いることでこの式は
\begin{align}
\rho(\bm{v}\cdot \nabla)\bm{v}
=
\frac{1}{2}\rho \nabla v^2
-\bm{v}\times \bm{\omega}
\end{align}
と書き直せる。
ここで
\begin{align}
\bm{\omega}\equiv \nabla \times \bm{v}
\end{align}
は,渦度(vorticity)と呼ばれる。
この関係を用いることで,(\ref{eq:Euler})は
\begin{align}
\rho\frac{\pd}{\pd t}\bm{v}
-\rho\bm{v}\times\bm{\omega}
=
-\frac{1}{2}\rho\nabla v^2
-\nabla p + \rho \bm{f}
\end{align}
と変形できる。
Bernoulliの定理
外力が$\bm{f}=-\nabla \varphi$の形に書けるとき,全体を$\rho$で割り,断熱運動においてエンタルピー密度$h$の満たす関係$\nabla h=\nabla p /\rho$を用いると
\begin{align}
\frac{\pd}{\pd t}\bm{v}
-\bm{v}\times\bm{\omega}
=&
-\frac{1}{2}\nabla v^2
-\nabla h - \nabla \varphi \notag \\
=&
\label {eq:Bernoulli0}
-\nabla \left( \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi \right)
\end{align}
のように,右辺をある関数の勾配の形に置ける。
流れが定常なケース
流れが定常($\pd/\pd t=0$)なとき,(\ref{eq:Bernoulli0})と$\bm{v}$の内積を取ると,左辺は速度の直交性から落ち,右辺は流れに沿った方向微分$\bm{v}\cdot\nabla(...)$の形になるため
\begin{align}
\bm{v}\cdot \nabla \left( \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi \right)=0
\end{align}
より
\begin{align}
\label {th:Bernoulli1}
\frac{1}{2}v^2 +h + \varphi = \text{流線上で一定}
\end{align}
が導かれる。
密度が一様な場合は,$h=p/\rho$より
\begin{align}
\frac{1}{2}\rho v^2 +p + \rho\varphi = \text{流線上で一定}
\end{align}
とも表せる。
渦がないケース
今度は,必ずしも流れは定常ではないが,渦がない$\bm{\omega}=\nabla \times \bm{v}=0$場合を考える。
この場合,回転が$0$であることから,速度はスカラー関数$\Phi(\bm{x})$を用いて$\bm{v}=\nabla \Phi$と表せる。
すると(\ref{eq:Bernoulli0})は
\begin{align}
\nabla \left(\frac{\pd\Phi}{\pd t}+ \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi \right)=0
\end{align}
と書き直せる。
これより
\begin{align}
\label {th:Bernoulli2}
\frac{\pd\Phi}{\pd t}+ \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi =\text{一定}
\end{align}
が空間全体で成り立つことがわかる。
(\ref{th:Bernoulli1})あるいは(\ref{th:Bernoulli2})を,Bernoulliの定理と呼ぶ。
(\ref{th:Bernoulli2})についても,定常状態かつ密度が一様とすると
\begin{align}
\frac{1}{2}\rho v^2 +p + \rho \varphi=\text{一定}
\end{align}
の表現を得る。