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    Bernoulliの定理

    Dr. SSS 2020/04/24 - 13:02:04 1570 流体力学
    はじめに

    完全流体が,いくつかの条件の下に満たす保存則に対応するBernoulliの定理について解説する。


    keywords: Daniel Bernoulli, Leonhard Euler, Bernoulliの定理, 流体力学

    運動方程式

    完全流体(粘性のない流体)の運動は,Eulerの運動方程式

    \begin{align} \label{eq:Euler} \rho \frac{\pd}{\pd t}\bm{v} + \rho (\bm{v}\cdot \nabla) \bm{v} = -\nabla p + \rho \bm{f} \end{align}

    で記述される。 ここで$\rho$は質量密度,$\bm{v}$は流体速度,$p$は圧力,$\bm{f}$は単位質量当たりの外力である。

    二項目の対流項に,ベクトル関係式

    \begin{align} (\bm{v}\cdot \nabla)\bm{v} = \frac{1}{2}\nabla v^2 -\bm{v}\times(\nabla \times \bm{v}) \end{align}

    を用いることでこの式は

    \begin{align} \rho(\bm{v}\cdot \nabla)\bm{v} = \frac{1}{2}\rho \nabla v^2 -\bm{v}\times \bm{\omega} \end{align}

    と書き直せる。 ここで

    \begin{align} \bm{\omega}\equiv \nabla \times \bm{v} \end{align}

    は,渦度(vorticity)と呼ばれる。 この関係を用いることで,(\ref{eq:Euler})は

    \begin{align} \rho\frac{\pd}{\pd t}\bm{v} -\rho\bm{v}\times\bm{\omega} = -\frac{1}{2}\rho\nabla v^2 -\nabla p + \rho \bm{f} \end{align}

    と変形できる。




    Bernoulliの定理

    外力が$\bm{f}=-\nabla \varphi$の形に書けるとき,全体を$\rho$で割り,断熱運動においてエンタルピー密度$h$の満たす関係$\nabla h=\nabla p /\rho$を用いると

    \begin{align} \frac{\pd}{\pd t}\bm{v} -\bm{v}\times\bm{\omega} =& -\frac{1}{2}\nabla v^2 -\nabla h - \nabla \varphi \notag \\ =& \label {eq:Bernoulli0} -\nabla \left( \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi \right) \end{align}

    のように,右辺をある関数の勾配の形に置ける。


    流れが定常なケース

    流れが定常($\pd/\pd t=0$)なとき,(\ref{eq:Bernoulli0})と$\bm{v}$の内積を取ると,左辺は速度の直交性から落ち,右辺は流れに沿った方向微分$\bm{v}\cdot\nabla(...)$の形になるため

    \begin{align} \bm{v}\cdot \nabla \left( \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi \right)=0 \end{align}

    より

    \begin{align} \label {th:Bernoulli1} \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi = \text{流線上で一定} \end{align}

    が導かれる。 密度が一様な場合は,$h=p/\rho$より

    \begin{align} \frac{1}{2}\rho v^2 +p + \rho\varphi = \text{流線上で一定} \end{align}

    とも表せる。


    渦がないケース

    今度は,必ずしも流れは定常ではないが,渦がない$\bm{\omega}=\nabla \times \bm{v}=0$場合を考える。 この場合,回転が$0$であることから,速度はスカラー関数$\Phi(\bm{x})$を用いて$\bm{v}=\nabla \Phi$と表せる。 すると(\ref{eq:Bernoulli0})は

    \begin{align} \nabla \left(\frac{\pd\Phi}{\pd t}+ \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi \right)=0 \end{align}

    と書き直せる。 これより

    \begin{align} \label {th:Bernoulli2} \frac{\pd\Phi}{\pd t}+ \frac{1}{2}v^2 +h + \varphi =\text{一定} \end{align}

    が空間全体で成り立つことがわかる。 (\ref{th:Bernoulli1})あるいは(\ref{th:Bernoulli2})を,Bernoulliの定理と呼ぶ。 (\ref{th:Bernoulli2})についても,定常状態かつ密度が一様とすると

    \begin{align} \frac{1}{2}\rho v^2 +p + \rho \varphi=\text{一定} \end{align}

    の表現を得る。



    参考文献