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    静磁気学の基礎:定常電流と静磁場

    Dr. SSS 2023/11/23 - 15:30:32 862 電磁気学
    はじめに

    電流と磁場およびそれらの間に働く力との関係について議論する。


    keywords: Biot-Savart法則, 磁場, 電流密度, 電流

    電荷の連続の式と定常電流

    電荷が静的ではない,すなわち動的な場合を考えよう。 電荷は運動していても消失したり増殖したりすることはなく,したがって電荷の量は保存される。 それを表す局所的な関係が,連続の式

    \begin{equation} \frac{\pd\rho}{\pd t} +\nabla\cdot\bm{j}=0 \end{equation}

    である。 ここで,$\rho$は電荷密度で,電荷密度の流れ$\bm{j}$を電流密度(current density)と呼ぶ。

    ここでは,導体内の定常な電流を考える。 電荷の流れが静的ではないが定常であるとは次のような状況である。 個々の電荷が運動していても,系の任意の領域を取ったとき,そこから出ていく電荷の量が,そこに流れ込む電荷の量と等しければ,位置を固定して見た電荷密度は変化しない。 したがって,定常な電流は

    \begin{equation} \label{eq:steady_nabla_j} \nabla\cdot\bm{j}=0 \end{equation}

    を満たす。

    直線電流間に働く力

    荷電粒子には,電場に加え,磁場$\bm{B}$による力

    \begin{equation} \label{eq:lorentz_force_B} \bm{F} =q\bm{v}\times\bm{B} \end{equation}

    も作用する。 $q$および$\bm{v}$はそれぞれ荷電粒子の電荷と速度であり,こうした運動する荷電粒子が担う正味の電荷の流れが電流密度を生む。 個々の荷電粒子を$a$でラベルすると電流密度は

    \begin{equation} \bm{j}(\bm{x}) =\sum_a q_a \bm{v}_a \delta(\bm{x}-\bm{x}_a) \end{equation}

    で与えられる。 あるいは,分布関数を用いれば

    \begin{equation} \bm{j}(\bm{x}) =\sum_s \int q_s \bm{v}f_s(\bm{x},\bm{v})d^3v \end{equation}

    とも表せる。 ここで,$s$は粒子種のラベルで,$f_s$は粒子種$s$の分布関数である。 そして,これが通過する面で積分したもの

    \begin{equation} I = \int \bm{j}\cdot\bm{n}dS \end{equation}

    電流(electric current)である。

    ある導線に沿って流れる電流が受ける力を考えよう。 導線に沿った線素を$dl$,断面積を$S$とする微小体積中の電流密度が受ける力は

    \begin{equation} d\bm{F} = \bm{j}\times\bm{B}Sdl \end{equation}

    である。 $\bm{j}$が断面積$S$に渡って一様とみなせるなら

    \begin{equation} d\bm{F} =\bm{I}\times\bm{B}dl \end{equation}

    とできる。 ここで$\bm{I}$は大きさ$I$で局所的な電荷の流れに沿った方向を向くベクトルである。 つまり,電流は単位長さあたり

    \begin{equation} \bm{f} =\bm{I}\times\bm{B} \end{equation}

    の力を受ける。

    長さを無限とみなせるような長い直線電流$I_1$と$I_2$が平行に流れているとすると,互いの間に働く単位長さあたりの力の大きさは

    \begin{equation} f_{12} = \mu_0 \frac{I_1 I_2}{2\pi r} \end{equation}

    となることが経験的に確かめられていた。 比例係数は後の便宜のために選択してあり,定数$\mu_0$は真空の透磁率(vacuum magnetic permeability)あるいは磁気定数(magnetic constant)と呼ばれる。 また$r$は電流$I_1$から$I_2$の距離であり,力の方向は電流の向きと垂直で,互いを結ぶ線に沿った方向となる。 ただし,両方の電流が同じ向きに流れていれば引き合う向き,反対であれば退け合う向きに働く。

    電場の場合と同様の考えから,この場合電流$I_2$によって作られる力を媒介する磁場の強さが

    \begin{equation} \label{eq:straight_current_B_field} B = \frac{\mu_0 I_2}{2\pi r} \end{equation}

    であると考えられる。 (\ref{eq:lorentz_force_B})より,向きも考慮に入れると

    \begin{equation} \bm{B} = \frac{\mu_0}{2\pi} \frac{\bm{I}_2\times\bm{r}}{r^2} \end{equation}

    である。



    Biot-Savart法則

    線密度$\lambda$の無限に長い直線上に分布した電荷が,直線から垂直な距離$r$のところに作る電場の大きさは

    \begin{equation} dE = \frac{\lambda}{4\pi\varepsilon_0} \frac{\sin\alpha}{R^2}ds \end{equation}

    を積分して

    \begin{equation} \label{eq:straight_charge_E_field} E = \frac{\lambda}{2\pi\varepsilon_0 r} \end{equation}

    と得られるのであった。 ここで,電荷のある直線上で電場を測る点まで最も近い点を原点としたとき,原点から電荷片までの距離を$s$とし,$R=\sqrt{r^2+s^2}$および$\sin\alpha=s/R$である。

    無限に長い一様な電流が作る磁場(\ref{eq:straight_current_B_field})は,(\ref{eq:straight_charge_E_field})と類似する形をしている。 したがって,電流が作る磁場の大きさについても

    \begin{equation} dB = \frac{\mu_0 I}{4\pi} \frac{\sin\alpha}{R^2}ds \end{equation}

    の重ね合わせからなると考えられる。 電流断面内に非一様性がある場合は,電流密度を用いて

    \begin{equation} dB = \frac{\mu_0 j}{4\pi} \frac{\sin\alpha}{R^2}dV \end{equation}

    である。 これは局所的な量なので,回路に沿って重ね合わせることで任意の形状の回路を流れる電流が作る磁場を評価できる。 磁場を測定する点を$\bm{x}$,電流密度の位置を$\bm{x}'$とすると,$R=|\bm{x}-\bm{x}'|$であり,$|\bm{j}(\bm{x}')\times(\bm{x}-\bm{x}')|=jR\sin\alpha$であるから,向きを考慮に入れ

    \begin{equation} \label{eq:bio-savart_law} \bm{B}(\bm{x}) = \frac{\mu_0}{4\pi} \int \frac{\bm{j}(\bm{x}')\times(\bm{x}-\bm{x}')}{|\bm{x}-\bm{x}'|^3}d^3x' \end{equation}

    である。 これをBiot-Savart法則(Biot-Savart law)と呼ぶ。

    $\nabla=\pd/\pd\bm{x}$とし,これは$\bm{x}'$の関数である$\bm{j}(\bm{x}')$には作用しないことに注意すると

    \begin{equation} \begin{split} \nabla\times \left( \frac{\bm{j}(\bm{x}')}{|\bm{x}-\bm{x}'|} \right) =& -\bm{j}(\bm{x}') \times \nabla \left( \frac{1}{|\bm{x}-\bm{x}'|} \right) \\ % =& \frac{\bm{j}(\bm{x}')\times(\bm{x}-\bm{x}')}{|\bm{x}-\bm{x}'|^3} \end{split} \end{equation}

    である。 したがって(\ref{eq:bio-savart_law})は

    \begin{equation} \label{eq:bio-savart_law2} \bm{B}(\bm{x}) = \frac{\mu_0}{4\pi} \int \nabla\times \left( \frac{\bm{j}(\bm{x}')}{|\bm{x}-\bm{x}'|} \right) d^3x' \end{equation}

    と書き換えられる。 よって磁場は

    \begin{equation} \label{eq:vector_potential_j} \bm{A}(\bm{x}) = \frac{\mu_0}{4\pi} \int \frac{\bm{j}(\bm{x}')}{|\bm{x}-\bm{x}'|} d^3r' \end{equation}

    という量の回転として

    \begin{equation} \label{eq:B_rot_A} \bm{B} =\nabla\times\bm{A} \end{equation}

    と表すことができる。 (\ref{eq:vector_potential_j})をベクトルポテンシャル(vector potential)と呼ぶ。

    任意のベクトルの回転の発散はゼロであるから,$\nabla\cdot\bm{B}=0$となる。 ただし,通常は磁場がこの性質を満たすという経験的事実から(\ref{eq:B_rot_A})の形を導き,ベクトルポテンシャルを導入する。


    参考文献