はじめに
3次元回転$SO(3)$は,2次元単位球面$S^2$上の点を$S^2$に写す変換とみなすことができるが, 立体射影を利用し,$S^2$上の点を複素平面上の点に対応付けることで,$SO(3)$の元を,$SU(2)$の元に対応付けることができる。
このとき,$SU(2)$の表現空間の元として,スピノルと呼ばれる量が導入される。
$S^2$と複素平面の対応
立体射影を行うと,2次元球面$S^2$上の点$\bm{x}=(x,y,z)$と,$z=0$に定義される複素平面上の点$\zeta$の対応は
\begin{align}
\label{eq:xyz}
x=
\frac{\zeta+\zeta^*}{|\zeta|^2+1}, \quad
y=
\frac{\zeta-\zeta^*}{i(|\zeta|^2+1)}, \quad
z=\frac{|\zeta|^2-1}{|\zeta|^2+1}
\end{align}
となる。
しかし,このままでは北極$N=(0,0,1)$への対応付けができない。
これに対処するため,$\zeta=\xi_1/\xi_2$とし,2つの複素数$\xi_1,\xi_2$を導入する。
これらを用いることで(\ref{eq:xyz})は
\begin{align}
\label{eq:xyz2}
x=
\frac{\xi_1 \xi_2^*+\xi_1^*\xi_2}{|\xi_1|^2+|\xi_2|^2}, \quad
y=
\frac{\xi_1 \xi_2^*-\xi_1^*\xi_2}{i(|\xi_1|^2+|\xi_2|^2)}, \quad
z=\frac{|\xi_1|^2-|\xi_2|^2}{|\xi_1|^2+|\xi_2|^2}
\end{align}
と書き換えられ,北極$N$は$\xi_1\neq0,\ \xi_2=0$に対応付けられる。
$SO(3)$と$SU(2)$の対応
$z$軸周りの角度$\alpha$の回転により,$(x,y,z)$は
\begin{align}
(x+iy)\to e^{i\alpha}(x+iy),
\quad
z\to z
\end{align}
という変換を受ける。
この変換を,$\xi_1,\xi_2$に対する変換として表そうとすれば,(\ref{eq:xyz2})より
\begin{align}
U_z(\alpha)
=
\left(
\begin{array}{cc}
e^{i\alpha} & 0 \\
0 & e^{-i\alpha}
\end{array}
\right)
\end{align}
を用いて
\begin{align}
\left(
\begin{array}{c}
\xi_1 \\
\xi_2
\end{array}
\right)
\to
U_z(\alpha)
\left(
\begin{array}{c}
\xi_1 \\
\xi_2
\end{array}
\right)
\end{align}
とすればよいと分かる。
同様に,$y$軸周りの回転は,回転角を$\beta$とし
\begin{align}
(z+ix)\to e^{i\alpha}(z+ix),
\quad
y\to y
\end{align}
であり,対応する$\xi_1,\xi_2$に対する変換は
\begin{align}
U_y(\beta)=
\left(
\begin{array}{cc}
\cos{\frac{\beta}{2}} & \sin{\frac{\beta}{2}} \\
-\sin{\frac{\beta}{2}} & \cos{\frac{\beta}{2}}
\end{array}
\right)
\end{align}
により
\begin{align}
\left(
\begin{array}{c}
\xi_1 \\
\xi_2
\end{array}
\right)
\to
U_y(\beta)
\left(
\begin{array}{c}
\xi_1 \\
\xi_2
\end{array}
\right)
\end{align}
となる。
任意の回転を表す変換は,$z$軸および$y$軸周りの回転の組み合わせにより
\begin{align}
U(\alpha,\beta,\gamma)
=&
U_z(\gamma)U_y(\beta)U_z(\alpha) \notag \\
=&
\left(
\begin{array}{cc}
\cos{\frac{\beta}{2}}e^{i(\alpha+\gamma)/2} & \sin{\frac{\beta}{2}}e^{-i(\alpha-\gamma)/2} \\
-\sin{\frac{\beta}{2}}e^{i(\alpha-\gamma)/2} & \cos{\frac{\beta}{2}}e^{-i(\alpha+\gamma)/2}
\end{array}
\right)
\end{align}
と得られる。
この行列は
\begin{align}
\det U=1,\quad UU^\dagger=1
\end{align}
を満たすから,$SU(2)$の具体的な表現になっている。
このとき,表現空間を構成する2成分の複素ベクトル$\xi=(\xi_1,\xi_2)$を,スピノル(spinor)という。
このように,$SO(3)$と$SU(2)$の間に対応関係があることが分かったが,$\alpha\to \alpha+2\pi$とすると
\begin{align}
U(\alpha+2\pi,\beta,\gamma)
=
-U(\alpha,\beta,\gamma)
\end{align}
と符号が反転するのに対し,$SO(3)$の元$R$については当然
\begin{align}
R(\alpha+2\pi,\beta,\gamma)
=
R(\alpha,\beta,\gamma)
\end{align}
であるから,その対応関係は1対1ではなく,1対2である。