多様体は,チャート(開近傍とEuclid空間への写像の組)を張り合わせて構成されるが,複数のチャートを必要とするもののうち,最も単純で身近な例が球である。
以下では,2次元単位球面$S^2$から北極$N=(0,0,1)$の1点を除いた$M=S^2-\{N\}$から$R^2$への同相写像(相互に連続な1対1写像)を定義する方法と,その写像の具体的な表現について説明する。
$x^2+y^2+z^2=1$で定義される2次元単位球面$S^2$を考える。 単一の写像では,$S^2$を1対1でEuclid平面$R^2$に対応付けることはできないが,$S^2$から北極$N=(0,0,1)$の1点を除いた$M=S^2-\{N\}$から$R^2$であれば,次のようにして,同相写像を定義することができる。
下図のように,$N=(0,0,1)$から$S^2$上の点$\bm{x}=(x,y,z)$を通る直線$l$を引き,$z=0$で定義される面$R^2$との交点を$\bm{x}'=\varphi(\bm{x})$とすると,この写像$\varphi$は同相になる。 これを,ステレオ投影(stereographic projection)や立体射影などという(トップの図はこの写像の断面図)。
以下,この写像の具体的な表現を考える。
直線$l$は,パラメータ$t$を用いて
と表すことができる。
$\varphi(\bm{x})$における$t$の値$t_0$は,$z$座標を0として
より
と決まる($\bm{x}\neq N$なので$z\neq 1$)。 これを(\ref{eq:StereoPara})に入れると
が求まる。
今度は反対に,平面$R^2$から$S^2$への写像の表現を求める。 $R^2$の点を$\bm{x}'=(x',y')$とすると,(\ref{eq:phix})より
であるから,これと$x^2+y^2+z^2=1$の関係を合わせると
が得られ,$z\neq 1$であるから$(1-z)$で割ることができて
となる。
これを整理することで,結果的に
という関係が得られる。 これを(\ref{eq:xyprime})に入れることで$x',y'$の表現も得られる:
応用的に重要になるため,$y$軸を虚軸とし,$z=0$の平面を複素平面とみなした場合の表現についても考えておこう。 このとき$\varphi$によって$\bm{x}\in M$は,複素平面上の1点に写されるから,(\ref{eq:phix})に対応するのは
である。
反対に複素平面上の点$\zeta$からの逆像は,(\ref{eq:1-z2x2})に対応する式が
となることから
および
となる。
(\ref{eq:cmplx_xy})の複素共役を取り足し引きすることで,$x,y$個別の表現
も得られる。