はじめに
ここでは,2次の特殊ユニタリ群$SU(2)$のLie代数について考える。
これは,特殊線形群のうち,ユニタリ行列からなる群のこと,すなわち$2\times 2$のユニタリ行列で,行列式が$1$であるものの集合
\begin{align}
SU(2)=\{ U \in M(2,C) \ | \ \det{U}=1, \ UU^\dagger=U^\dagger U=1\}
\end{align}
のことである($M(2,C)$は2次の複素正方行列の集合)。
自由度
$2\times 2$の複素行列は,$2\times2=4$つの成分を持ち,各成分が複素数であるためその倍$4\times 2=8$の自由度がある。
しかし,ユニタリ条件
\begin{align}
\label{eq:unitary_matrix}
U^\dagger U= UU^\dagger =1
\end{align}
が成分1つずつに条件を課すから,自由度は$8-4=4$に減る。
さらに,$\det U=1$の条件が自由度を1つ減らすから,結局$SU(2)$の自由度は$4-1=3$となる。
行列$U$を
\begin{align}
U=e^{iX}=e^{i\sum_{i=1}^3 t_i X_i }
\end{align}
と表すと,(\ref{eq:unitary_matrix})より
\begin{align}
X^\dagger =X
\end{align}
となる。
すなわち,ユニタリ群の生成元はエルミートである。
また,$SU$の場合は
\begin{align}
\det U
=
\exp[\tr(iX)]=1
\end{align}
より,$X$がトレースレスである条件
\begin{align}
\tr(X)=0
\end{align}
が加わる。
Lie代数
上述の条件を満たす生成子の基底として
\begin{align}
X_i = J_i=\frac{1}{2}\sigma_i,
\ (i=1,2,3)
\end{align}
が選べる。
ここで
\begin{align}
\sigma_1
=
\left(
\begin{array}{cc}
0 & 1 \\
1 & 0
\end{array}
\right),\
\sigma_2
=
\left(
\begin{array}{cc}
0 & -i \\
i & 0
\end{array}
\right),\
\sigma_3
=
\left(
\begin{array}{cc}
1 & 0 \\
0 & -1
\end{array}
\right)
\end{align}
であり,交換関係は
\begin{align}
\label{eq:SU2_LieBracket}
[J_i,J_j]=i\sum_k \ep_{ijk}J_k
\end{align}
となる。
Cartan部分代数
(\ref{eq:SU2_LieBracket})より,$\frg=\frsu(2)$の可換な元は$J_i$それ自身のみであるから,Cartan部分代数の階数は1になる。
これを$H=J_3$と選ぼう。
すなわち,$\frh=\{J_3 \}$である。
このとき,(\ref{eq:SU2_LieBracket})より$H=J_3$の随伴表現は
\begin{align}
\ad(J_3)
=\left(
\begin{array}{ccc}
0 & i & 0 \\
-i & 0 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{array}
\right)
\end{align}
で与えられ,固有方程式は
\begin{align}
\det(\ad(J_3)-\alpha I)
=
\alpha(\alpha^2-1)=0
\end{align}
となるから,ウェイトは$\alpha=\pm 1$となる。
このように$\frh^*$も1次元になるが,便宜のために添え字をつけて$\alpha_3$と表すようにしよう。
$\pm\alpha_3$に対応する固有ベクトル$E_{\pm\alpha}$はそれぞれ
\begin{align}
E_{\pm}=\frac{1}{2}(J_1\pm i J_2)
\end{align}
によって構成できる。
これらは交換関係
\begin{align}
[J_3,J_\pm]=\pm J_\pm,
\quad
[E_+,E_-]=\frac{J_3}{2}
\end{align}
を満たす。
ここで
\begin{align}
J_{\pm}\equiv \sqrt{2} E_{\pm}
\end{align}
と規格化しなおせば,標準基底の交換関係
\begin{align}
[J_3,J_\pm]=\pm J_\pm,
\quad
[J_+,J_-]=J_3
\end{align}
を満たすようにできる。
最高ウェイト
関係
\begin{align}
\frac{2(\alpha_i,\mu_j)}{(\alpha_i,\alpha_i)}
=
\delta_{ij}
\end{align}
を用いて基本ウェイトを求めよう。
今のケースでは1成分しかないから,対応する式は
\begin{align}
\frac{2(\alpha_3,\mu_3)}{(\alpha_3,\alpha_3)}
=
1
\end{align}
である。
Cartan計量は
\begin{align}
g_{33}
=&\tr(\ad(J_3)\ad(J_3))
=
\tr
\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 0 & 0 \\
0 & 1 & 0 \\
0 & 0 & 0
\end{array}
\right)
= 2
\end{align}
と求められるから,この逆は
\begin{align}
g^{33}
=& (g_{33})^{-1}=\frac{1}{2}
\end{align}
となり
\begin{align}
(\alpha_3,\alpha_3)
=
g^{33}\alpha_3 \alpha_3
=\frac{1}{2}
\end{align}
とわかる。
これより
\begin{align}
\frac{2(\mu,\alpha)}{(\alpha,\alpha)}
=
\frac{2g^{33}\mu_3 \alpha_3}{g^{33}\alpha_3 \alpha_3}
=
2\alpha_3\mu_3=1
\end{align}
であるから,基本ウェイト$\mu_3$が
\begin{align}
\mu_3=\frac{1}{2}
\end{align}
と求まる。
すなわち,基本表現の最高ウェイトは$1/2$であり,任意の最高ウェイトはこれに0以上の整数をかけたものであるから,それを$j$と記すと,$j$の値は
\begin{align}
j = n/2, \ n=0,1,2,3,...
\end{align}
に限られる。
基本表現$n=1(j=1/2)$の場合は最高ウェイトに対応する状態$|j\rangle$に下降演算子$J_-$を1回作用すると最低ウェイト$j-1=-1/2$が得られて,$n=2(j=1)$の場合は2回作用することで$j-2=-1$が得られる。
すなわち,一般に最高ウェイト状態に$J_-$を$n$回作用すると,最低ウェイト$j-n=-j$が得られる。
これよりウェイトの総数が$2j+1$個であるとわかり,この数が既約表現の次元となる。
昇降演算子の行列要素
今考えているケースでは,昇降演算
\begin{align}
J_{\pm}|m\rangle
=\sqrt 2 N_{\pm \alpha_3,m}|m\pm1\rangle
\end{align}
に現れる係数,すなわち昇降演算子$J_\pm$の行列要素$N_{\alpha_3,m}$を与える公式は
\begin{align}
|N_{\alpha_3,m}|^2
=p(q+1)\frac{(\alpha_3,\alpha_3)}{2}
=
\frac{1}{4}p(q+1)
\end{align}
であり
\begin{align}
m+p\alpha_3=j, \
m-q\alpha_3=-j
\end{align}
より
\begin{align}
|N_{\alpha_3,m}|^2
=
\frac{1}{4}(j-m)(j+m+1)
\end{align}
である。