ここでは,Cartan部分代数とルートの性質を利用してLie代数を直和分解し,Lie代数の構造を調べるにあたって有用となる新たな基底を導入する。
まず,『Cartan部分代数とルート』の内容を,数学的により形式的な形で記述しなすことでおさらいしよう。
Lie代数$\frg$のCartan部分代数$\frh$を固定したとき,任意の元$H\in \frh$に対し,同時固有ベクトル$X\in \frg$が存在し
が成り立つ(コチラも参照)。 このとき,$\frh$の双対空間$\frh^*$の元$\alpha$を,$\frg$のルートという。
ここで,新たな記号を導入し,0でないルートの集合を$\bigtriangleup$と記すこととする。 これは,$(\dim \frg- \dim \frh)$個の元からなる有限集合である。
$\ad(H)$は対角化可能であるから,各$\alpha \in \frh^*$に対し $\frg$の固有空間
が定まり,$\frg$を
と直和分解することができる。 このとき,$\frg_\alpha$をルート$\alpha$に対応するルート空間(root space)といい,(\ref{eq:root_decomp})を$\frg$のルート空間分解(root space decomposition)という。
$\frg_0$は
となる$X$すべての集合であるが,$\frh$自身がこうした集合で極大なもののことであるから,$\frg_0=\frh$である。
$E_\alpha \in \frg_\alpha$であったから,$\{H_\alpha, E_\alpha, E_{-\alpha}\}$によって,新たに$\frg$の基底を構成することができる。 また,$[E_\alpha,E_\beta]$は固有値$\alpha+\beta$に対応する固有値であったから,$\alpha+\beta$もルートであるなら,何らかの数$N_{\alpha,\beta}$を用いて
と表すことができる。 このとき
が同時に成り立つよう$E_\alpha$を選ぶことができる。
これまでの結果をまとめると,このようにして選んだ基底は次のような交換関係を満たす:
($l=\dim \frh$)
(\ref{eq:Nab-N-a-b})と合わせ,これらの関係を満たす基底を,Cartan-Weyl基底または標準基底(canonical basis)という。