ここでは主にこれまでに示してこなかったルートおよび関連する概念の重要な性質を列挙し,後にそれらの証明を与える。 その前に1つ,以下で用いる概念を導入(おさらい)しておこう:
定義: 写像$f:X\to Y$の定義域を,$X$の部分集合$A$に狭めたものを,$f$の$A$への制限(restriction)という。
つまり,$X$の元のうち,$a \in A$だけを$Y$に写す写像$f(a)\in Y$のことである。 これを$f|_A$のように表す。
は整数になる。 この数は,Cartan整数(Cartan integer)と呼ばれる。
$E_\alpha \in \frg_\alpha, E_\beta \in \frg_\beta$および$E_\gamma \in \frg_\gamma$とすると,$\ad(E_\alpha)E_\gamma=[E_\alpha,E_\gamma]\in \frg_{\alpha+\gamma}$であるから,$\ad(E_\alpha):\frg_\gamma\to \frg_{\alpha+\gamma}$であり,同様に,$\ad(E_\alpha)\ad(E_\beta):\frg_\gamma\to \frg_{\alpha+\beta+\gamma}$である。 $\alpha+\beta \neq 0$であるから,すなわち$\ad(E_\alpha)\ad(E_\beta)$は$\frg_\gamma$を$\frg_\gamma$以外の空間に写す写像である。 よって$\ad(E_\alpha)\ad(E_\beta)$を行列表示すると,その対角成分は$0$になる。 よって,$B(E_\alpha,E_\beta)=\tr(\ad(E_\alpha)\ad(E_\beta))=0$である。
$B$の$\frh$上への制限が非退化でないとすると,$\frg$上で非退化であるという事実に反するということを示す。
ある$H\in \frh$が,$\forall H' \in \frh$に対し
を満たすとする。 また,$\frh=\frg_0$であり$\forall\alpha \in \bigtriangleup$に対し$\alpha+0\neq 0$なので,命題1より$\forall E_\alpha \in \frg_\alpha$に対して
でもある。 $\frg$は$\frh=\frg_0$と$\frg_\alpha$の直和であるから,上の2つの式は,$\forall X \in \frg$に対し
であることを意味している。 $B$は$\frg$上で非退化であったから,$H=0$でないといけない。 よって,$B$の$\frh$上への制限も非退化である。
$[E_\alpha,E_{-\alpha}]=H_\alpha$と$\ad([E_\alpha,E_{-\alpha}])=[\ad(E_\alpha),\ad(E_{-\alpha})]$および次元の等しい正方行列$A,B$に対して$\tr(AB)=\tr(BA)$が成り立つことから
となる。
$[E_{\alpha},E_{-\alpha}]=H_\alpha$となる$E_\alpha\in \frg_\alpha$および$E_{-\alpha}\in \frg_{-\alpha}$を選ぶ。 また,ルートは有限であるから,$m\alpha$はルートだが,$(m+1)\alpha,(m+2)\alpha,...$はどれもルートではないような自然数$m$を取れる。 ここで$\frg$の部分空間
を用意する($C$は複素数の集合)。 これは,$E_{-\alpha}$と$H_\alpha$および各$\frg_{k\alpha}$の元$E_{k\alpha}^{(1)},...,E_{k\alpha}^{(d_k)}$によって張られる空間である。 ここで$d_k=\dim \frg_{k\alpha}$とした。
この部分空間は $\ad(H_\alpha)$および$\ad(E_{\pm \alpha})$に対して不変だから
が成り立つ。
他方,$\ad(H_\alpha)E_{-\alpha}=-\alpha(H_\alpha)E_{-\alpha}=-(\alpha,\alpha)E_{-\alpha}$および,$\ad(H_\alpha)$の$\frg_{k\alpha}$上の固有値が$k\alpha(H_\alpha)=k(\alpha,\alpha)$であることから,$V$の元を
と並べたベクトルに作用する$\ad(H_\alpha)$の行列の部分は
の形になるため,(\ref{eq:trVHa})と合わせて
の関係が得られる。 これより,$d_1=1, d_2=d_3=...=0$とわかる。 同様のことを$\alpha \to -\alpha$として行うことで,命題が証明される。
$\bigtriangleup$は有限集合なので,$k$を整数とすると有限個の$\beta+k\alpha$だけが$\bigtriangleup$に含まれる。 そこで,$-q\leq k \leq p$までは$\beta+k\alpha \in \bigtriangleup$だが,$\beta-(q+1)\alpha$も$\beta+(p+1)\alpha$はルートではないというように,整数$p,q\geq 0$が取れる。 これから$\frg$の部分空間
を取ると,$V$は$E_\alpha\in \frg_\alpha$および$E_{-\alpha}\in \frg_{-\alpha}$の随伴表現$\ad(E_\alpha),\ad(E_{-\alpha})$に対して不変であるから
となる。
他方,$\ad(H_\alpha)$の$\frg_{\beta+k\alpha}$上の固有値は
であるから,上の命題の証明と同様にして
と計算される。 (\ref{eq:trV0})および(\ref{eq:trV})より
が得られる。 $p,q$ともに整数であるから,この数は明らかに整数である。