はじめに
ここでは,ベクトルの基底を取り換えたときの成分の変換と,線形変換の表現の変換の仕方について説明する。
線形写像と線形変換
『線形変換』の項で考えた例は,回転操作の意味からも分かるように,変換によってベクトルが表現する対象を変化させるものであった。
今度は,座標を敷きなおすだけで,ベクトルが表現する対象自体は変えない変換を考える。
座標を敷きなおすということは,基底を別の基底に変換するということであるが,基底が変わるとそれに応じてベクトルの成分も変換される。
すると,任意のベクトル$\bm{x}$は,元の基底と新たな基底を用いて,次のように2通りに表現できる:
\begin{align}
\label{eq:basis1}
\bm{x}
=\sum_{i=1}^n x_i \bm{e}_i
=\sum_{i=1}^n x'_i \bm{e}'_i
\end{align}
基底の変換も同一ベクトル空間上の線形変換として表せるから,変換を$P$とすると,その表現行列を使って
\begin{align}
\label{eq:basis_tr}
\bm{e}'_i=\sum_{j=1}^n P_{ji}\bm{e}_j
\end{align}
と表せる。
そして,この表現を(\ref{eq:basis1})に戻すと
\begin{align}
\sum_{i=1}^n x_i \bm{e}_i
=\sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n x'_i P_{ji}\bm{e}_j
\end{align}
となり,添え字を入れ替えることで
\begin{align}
x_i=\sum_{j=1}^n P_{ij} x_j'
\end{align}
が得られる。
これより,基底変換(\ref{eq:basis_tr})に伴う成分の変換が
\begin{align}
\label{eq:compo_tr}
x_i'=\sum_{j=1}^n (P^{-1})_{ij}x_j
\end{align}
となることがわかる。
実際,(\ref{eq:basis_tr})と(\ref{eq:compo_tr})を(\ref{eq:basis1})の最右辺に入れると
\begin{align}
\sum_{i=1}^n x'_i \bm{e}'_i
=&
\sum_{i=1}^n\sum_{j,k=1}^n P_{ki}(P^{-1})_{ij} x_j\bm{e}_k \notag \\
=&
\sum_{j,k=1}^n \delta_{jk} x_j \bm{e}_k \notag \\
=&
\sum_{j=1}^n x_j \bm{e}_j
\end{align}
となり,辻褄が合う。
これも,平面上の位置ベクトルの回転で考えてみるとイメージしやすい。
回転$R$によって基底は反時計回りに回転してしまうから,位置ベクトル$\bm{x}$を同じ位置に留めるには,元の基底に引きずられていった成分を,時計回りに回転して戻してやらないといけない。
基底の変換に対して,成分はその逆行列による変換を受けるというのはそれだけのことだ。
表現行列の変換
続いて,基底$\bm{e}_i$が$\bm{e}'_i=P_{li} \bm{e}_l$と変換したとき,線形変換$T$の表現がどう変換されるかを考えよう。
線形変換$T$によって変換を受けたあるベクトルは,基底$\{\bm{e}_i\}$と$\{\bm{e}'_i\}$を使ってそれぞれ
\begin{align}
\sum_{i,j=1}^n T_{ij} x_j \bm{e}_i
=
\sum_{i,j=1}^n T'_{ij} x'_j \bm{e}'_i
\end{align}
と書ける。
ここに基底の取り換えに伴う変換式を代入すると
\begin{align}
\sum_{i,j=1}^nT_{ij} x_j \bm{e}_i
=\sum_{i,j=1}^n\sum_{k,l=1}^n
T'_{ij} (P^{-1})_{jk} x_k P_{li}\bm{e}_l
\end{align}
という等式が成り立ち,添え字を入れ替えると
\begin{align}
T_{ij}= P_{il} T'_{lk} (P^{-1})_{kj}
\end{align}
が得られる。
これより,線形変換の表現は,基底の取り換えにより
\begin{align}
T'_{ij}=(P^{-1})_{ik}T_{kl}P_{lj}
\end{align}
と変換されることがわかる。