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    一般線形群

    Dr. SSS 2020/12/05 - 14:14:46 7299 群論
    はじめに

    一般線形群の定義について説明する。


    keywords: Lie群, 一般線形群, 群論, 線形Lie群, 線形代数, ベクトル空間

    線形変換とその表現

    同じ体$K$(四則演算が定義できる集合)上のベクトル空間$V$から$W$への写像で,任意の$\bm{x},\bm{y} \in V$と$a,b\in K$について

    \begin{align} T(a\bm{x}+\bm{y}) = aT(\bm{x})+bT(\bm{y}) \end{align}

    という性質を満たすものを,線形写像(linear map)という。 同じ体上というのは,例えばベクトル空間$V$が実ベクトル空間であれば$W$も実ベクトル空間,$V$が複素ベクトル空間であれば$W$も複素ベクトル空間といった意味である, 特に,$V=W$であるとき,すなわち同じベクトル空間上の写像であるとき,$T$を線形変換(linear transformation)1次変換などという。

    $V$の次元を$n$とし,基底を$\bm{e}_j \ (j=1,2,...,n)$と選ぶと,$V$の任意のベクトル$\bm{x}$は

    \begin{align} \bm{x}=\sum_{j=1}^n x_j \bm{e}_j \end{align}

    と展開でき,これに対する$T$による変換は

    \begin{align} T(\bm{x}) =\sum_{j=1}^n x_j T(\bm{e}_j) =\sum_{j=1}^n x_j \sum_{i=1}^n T_{ij} \bm{e}_i \end{align}

    と書ける。 この行列を,基底$\{\bm{e}_j\}$を用いた$T$の表現行列(representation matrix)という。 何もしないという変換(恒等変換)も,単位行列$I$によって表現できる。


    線形変換群

    変換$T,U$を続けて行った結果は

    \begin{align} UT(\bm{x}) =&\sum_{j=1}^n x_j UT(\bm{e}_j) \notag \\ =& U\left(\sum_{j=1}^n x_j \sum_{i=1}^n T_{ij} \bm{e}_i\right) \notag \\ =&\sum_{j=1}^n x_j \sum_{k=1}^n (\sum_{i=1}^n U_{ki}T_{ij}) \bm{e}_k \end{align}

    となり,$UT$という変換も,$\sum_{i=1}^n U_{ki}T_{ij}$という成分を持つ行列で表現できる。 また,線形代数の基本的な性質として,任意の行列は積の結合則を満たす。 さらに,表現行列が正則な行列,すなわち逆行列を持つ行列であれば,線形変換の表現行列は群としての定義を満たす。

    すなわち,正則な正方行列からなる集合は群を成している。 これを$GL(n,F)$と表し,一般線形群(general linear group)と呼ぶ。 $F$は行列の成分が属する体を指しており,実数を成分とする行列からなる場合は$GL(n,R)$と表し,実一般線形群(real general linear group)と,複素数を成分とする行列からなる場合は$GL(n,C)$と表し,複素一般線形群(complex general linear group)と呼んだりもする。 一般線形群のことを線形変換群や1次変換群と呼ぶこともある。




    特殊線形群

    ここでは,体として$R$または複素数体$C$を考え,$K$は$R$か$C$のどちらかを表すとする。 体$K$上で定義される$n$次正方行列すべての集合$M(n,K)$のうち,正則な行列(逆行列を持つ行列)の作る集合$GL(n,K)$は群を成し,それを一般線形群と呼ぶのであった。

    正則であるということは行列式が0でないということだから,$GL(n,K)$は

    \begin{align} GL(n,K)=\{ A \in M(n,K) \ | \ \det{A}\neq 0\} \end{align}

    と表せる。 このうち,行列式が1である部分,すなわち

    \begin{align} SL(n,K)=\{ A \in M(n,K) \ | \ \det{A}=1\} \end{align}

    を,特殊線形群(special linear group)という。

    特殊線形群$SL(n,K)$が$GL(n,K)$の部分群となっていることは次のことからわかる。 まず,定義より,任意の$g,h\in SL(n,K)$について$\det g= \det h=1$であるが,行列式の性質から,$\det(gh)=\det{(g)}\det{(h)}=1$であるから

    \begin{align} \label{eq:gh1} g,h\in SL(n,K)\to gh\in SL(n,K) \end{align}

    とわかる。 また,逆行列の性質として,$\det (g^{-1})=(\det{g})^{-1}$が成り立つから,任意の$g\in SL(n,C)$について,$\det (g^{-1})=(\det{g})^{-1}=1$である。 よって

    \begin{align} \label{eq:gh2} g\in SL(n,K)\to g^{-1}\in SL(n,K) \end{align}

    であり,(\ref{eq:gh1})および(\ref{eq:gh2})より,$SL(n,K)$が$GL(n,K)$の部分群であることが言える。



    参考文献